司法アクセス学会
設立趣意


 社会のグランドデザインが大きく変わりつつあるこの時代にあって、正義=法への普遍的アクセスへの希求が高まっている。司法制度改革も大詰めの段階を迎え、司法ネットの中核となる日本司法支援センターの設立、多様な民間ADRの創出を支えるADR法の策定など、制度的な準備が整いつつある。

法の運用と継続的刷新に携わるわれわれの次の課題は、そうした制度を現実にどのように運営し、すべての国民にとって司法アクセスを現実に手の届くものとするか、ということである。国際的な場面で重要性が再認識されつつある「法の支配」も、これらの課題と表裏一体をなしていることはいうまでもない。

この課題に応えてゆくためには、アイデアを造形・提示し、ひろく国民の中にコンセンサスを形成して行く必要がある。そのためには、幅広い立場から司法アクセスをめぐる具体的な課題を洗い出し、利用者の観点に立って、共通の理解を広げてゆくべきであろう。そこには民間はもちろんのこと、制度の構築・運営を担う司法、行政、立法というパブリックサイドの支援も必要であり、法の支配に向けての民と官とのパートナーシップが新たな姿において求められる。

司法アクセスをめぐる課題は、広大な裾野を有している。具体的には例えば、リーガルエイドについては、旧来の貧困対策ではない、より普遍的なリーガルサービスへの脱却が必要とされるであろう。また、個人、組織を問わず利用者と弁護士などとの関係や裁判所におけるコミュニケーションが現実の法へのアクセスの成否を左右するのであり、それらの具体的な在り方の研究が求められている。司法を支える法律実務家やプラクティスの在り方は、司法制度やその運用を左右する重要性を有する。法曹の倫理もそのような観点から更に検討を要するであろう。国際交流、国際業務の観点からも、グローバル・コーポレート・ガバナンス、国際的な経済活動の透明性の確保、クロスボーダー・リーガルサービス、法曹教育のグローバリゼイションなど、さまざまな課題が山積している。

さらに、情報技術の高度化と爆発的普及は正義へのアクセスの普遍的な保障のために、現実的で有力なツールを提供するであろう。この、ITという切り口からの司法アクセスへの活用の在り方という課題も重要な意義を有すると考えられよう。

これまで司法アクセスの問題の重要性は種々の分野で認識されてはきたものの、これらの課題について実践の世界と学問の世界の幅広い人材が一堂に会し、学問分野横断的かつ総合的に取組む場は存在しなかった。

そこで、わたくしどもはここに「司法アクセス学会」を設立して、広く各分野から会員を募り、幅広い研究と討議の場を設け、これらの課題への取り組みを通じて、新しい理論の構築を行い、アクセスの普遍化の保障に有意義な貢献をしたいと願い、ここに呼びかける次第である。