学術大会 >> 記事詳細

2013/05/10

司法アクセス学会第2回学術大会(2008年度)

Tweet ThisSend to Facebook | by:admin
2009年3月14日、司法アクセス学会第2回学術大会(日弁連後援)が日弁連クレオにおいて開催された。以下では、その概要をお伝えしたい。

 今回の統一テーマは「企業法務の明日と司法アクセスを考える」である。「企業法務」というと、とかく企業の私的利益の追求のみ(社会性の欠如)が潜在的にイメージされるかもしれない。しかし、最近の企業不祥事に対するコンプライアンス論の高まりをみるまでもなく、企業法務は本来、「企業の良心」をサポートし、プライベートな領域における「法の支配」の浸透を目指すものであり、適正な企業活動を支えることを通じて広く社会への貢献を果たすことを志向するものではないのだろうか、という問題関心が高まりつつある。とくに、日本の経済社会を支えているといわれる、430万に及ぶ膨大な数の中小企業における司法アクセスの実現は、きわめて重要な意義を有するはずである。


開会挨拶

 小島武司会長

第1部:基調講演

 総合司会:太田勝造理事
  • 第1報告 棚瀬孝雄・中央大学法科大学院教授
    「企業活動と弁護士業務―取引社会の法的構築」

     まず、棚瀬講演では、中小企業の企業法務を司法アクセスの観点から考える場合、従来課題とされてきた「アクセス障害」(弁護士の不在、情報の不足、費用問題)や「認知の歪み」(本来弁護士に相談すべき法的問題であるにもかかわらず、そのようなものとして認知されない状態)の問題に加え、「法化」、「代替」及び「組織」という3つの要因を視野に入れ、より多角的な観点から検討する必要が示された。
     市場での取引や国家の規制、あるいは広く社会関係が法的な枠組みによって構築され、企業法務もこの法化への対応を迫られる。しかし、他方、当事者に弁護士の必要を意識させないメカニズム(代替)も社会の中に存在する。中小企業を取り巻く法環境の中で、代替のメカニズムがどのように働いているのか検証する必要が示された。また、中小企業のアクセス問題では、弁護士側の業務態勢(組織)の問題が重要な意味を有する。
     旧来の顧問弁護士制度は次第に解体に向かうとの見通しが示され、スポット市場化、専門化の道を進むとされる。大規模法律事務所のアソシエイトの中から、事務所を出て専門性を活かしながらスポット市場に参入し、あるいは企業内弁護士となって、中小企業の法務に貢献する可能性が示された。また、従来、法務部を支えてきた法学部卒業生(法学士)に代わり、法科大学院修了生で新司法試験に合格していない人材(未合格者)が今後の法務部の重要なリソースとなる可能性も示された。

  • 第2報告 阿部泰久・経団連経済第二本部長
    「企業法務における弁護士の役割―社外・社内それぞれについて」
    次に阿部講演では、まず、大企業における企業法務の進化について、初期の「文書法務」といわれた契約法務中心の時代、その後、必要とあれば訴訟をも辞さない紛争解決法務を経て、コンプライアンスを企業内に浸透させる紛争予防法務、更には法を経営に活かす戦略法務の時代に移りつつあり、そのような中で社外の弁護士と社内の法務部門あるいは社内弁護士との連携が重要なものとなってきていることが示された。他方、中小企業に目を転じると、法務以前の問題があり、これに弁護士アクセスの問題が重なっていることが指摘された。中小企業では本来法律問題が存在しているにもかかわらず、法律問題との認識がなされていないことがあり、また、弁護士以外の隣接士業(特に多いのは税理士)に相談をするということが一般的であるが、それは弁護士にアクセスしにくいということに大きな原因があるのではないかという問題提起がなされた。例えば、報酬・費用が不透明で、「高い」以前に分からないということ、弁護士の専門領域が対外的に表示されず、利用者からみて分からないことなどが大きな問題とされる。また、アクセス問題に関連して、中小企業も法テラス等を利用できるようにすべきではないかという提言がなされた。なお、社内弁護士制度の拡充に関連して、法務部の構成員として弁護士資格があることの意味は何なのかを考える必要があり、弁護士は決して特別の存在ではないことを踏まえる必要があり、それを前提にすれば、弁護士であることで社内で特別の待遇をすることの理由をどのように考えるべきか、という問題提起がなされた。

第2部:シンポジウム

 総会及び休憩を挟んで、第2部:シンポジウムが行われた。
 シンポジウムでは、まず4人のシンポジストによる報告がなされ、その後、フロアからの質問やコメントも交えながら、ディスカッションが行われた(コーディネイタ:大澤恒夫理事)。
  • 佐瀬 正俊・弁護士(日弁連)
    「企業法務と弁護士ニーズ」
     佐瀬報告は、日弁連が2006年から2007年にかけて行った「中小企業の弁護士ニーズ全国調査」の概要と調査チームが行った提言を紹介した。
     この調査は、中小企業における法的問題の認知に着目し、これに関連づけて弁護士の利用経験や利用満足度、さらに弁護士利用を阻むその他の要因などについて、全国の中小企業に質問している。
     報告書は、中小企業で弁護士利用が進まない一番の理由は、何が弁護士の関与を必要とする法的問題なのか否かがそもそも理解されていない点にあることを明らかにし、弁護士に相談すべき法的問題であることの認知度を向上するための啓発活動の必要性、総合的な診断者としての弁護士の位置付けとその理解促進、弁護士イメージや企業との関係性のイメージの改革の必要性、弁護士に関する情報(特にコスト・料金、専門性)提供の必要性、そのための「ひまわりサーチ」の提供開始と一層の充実の必要、弁護士紹介活動や隣接士業との連携の必要性、更にはリピート促進のためのさまざまな方策(弁護士が顧客企業を熟知すること、訴訟等以外での利用の促進、専門性の強化、研修の強化、コミュニケーション能力の向上、提案型サービスの提供)など、多角的な提言と日弁連における実践がなされていることが紹介された。

  • 福井 康太・大阪大学准教授
    「弁護士職の新領域の可能性-企業法務を中心として」
     福井報告は、大阪大学が2007年から2008年にかけて行った3つの実態調査が紹介された。
     まず①「企業における弁護士ニーズに関する調査」では、多くの企業が、訴訟や紛争解決など従来型の弁護士業務しかイメージできず、その結果、弁護士を日常的に活用するというレベルにはなかなか達していないこと、
     ②「一般弁護士の業務に関するアンケート調査」の結果は、①の調査結果を裏付ける内容となっていること、
     他方、③「組織内弁護士の業務に関するアンケート調査」の結果では、契約審査、コンプライアンス関連業務などが上位に来るのであり、企業がさまざまな法的リスクを管理する上で必要不可欠な業務を組織内弁護士が担っていることが理解されること、
     ③で明らかになった上位項目の業務は、今日の企業が置かれる厳しい競争的環境のなかでますます重視される業務であることなどが指摘された。そして、これらの業務について弁護士利用の必要性が認知されるようになれば、中企業においても弁護士利用がさらに進むことは十分に期待できること、そのためには、弁護士会などによるこれらの業務に関する弁護士サービスの周知活動とともに、法科大学院によるそのようなニーズに合わせた法曹養成教育が必要であることが指摘された。

  • 西田 章・弁護士
    「弁護士の就職と転職―人材市場から見た『司法アクセス』の課題について」
     西田報告では、まず、弁護士の就職と転職の現状について概観し、弁護士の採用活動スケジュールの問題や、大手法律事務所で大量採用された若手弁護士の行く末の問題、企業法務を目指す弁護士の転職の典型的パターンの紹介があり、これに続いて、弁護士紹介業者の役割と、法務人材市場への参入の難しさ、とりわけ商業ベースでの地方の中小企業向け市場への人材紹介の困難などが指摘された。
     最後に司法アクセス拡充に向けての課題として、弁護士が企業法務に携わるためのスキルを得るためにはOJTの機会が重要であり、そのためにはタイムチャージ方式がアソシエイト弁護士のスキルアップ意欲の向上に役立つこと、しかし、この方式が成り立つのは大規模法律事務所の大企業向け業務であること、他方、大規模事務所のデメリットとして、若手が自分の顧客を開拓する機会がないため独立することが難しいことが指摘された。
     また、法務ニーズの高度化・複雑化・大規模化によって、企業側の窓口となり専門性の高い弁護士サービスの選定・橋渡し・品質管理といった業務が重要になってくること、この機能を中小企業に提供するために中小法律事務所・個人法律事務所が連携して窓口業務や専門的助言を分担することも考えてゆくべきではないかという提言がなされた。


  • 高田 寛・BeaconIT法務部長/国士舘大学講師
    「中小企業の企業法務の現場から見た企業法務と司法アクセスの課題について」
     高田報告では、中小企業における法務部の役割は、業種によって異なるものの、IT関連では主として契約書の作成・審査にあり、そのメリットは法的リスクについての安心が得られることにあるということ、中小企業の法務部には旧司法試験の中途断念者がかなり含まれていて、彼らのコンプレックスが弁護士への相談に際して微妙なバイアスを生じていることなどが指摘された。
     さらに、中小企業の弁護士ニーズの開拓については、法務担当者との信頼関係の確立がとりわけ重要であること、若手弁護士について中小企業は高度な専門性より、新しい考えや柔軟性、バイタリティーに魅力を感じること、これに関連して、中小企業ではしばしば高いエリート意識をもつ弁護士よりも司法試験中途断念者の方が使いやすいという事情があることなどが指摘された。今後、中小企業法務部が法科大学院修了の未合格法務博士の主要なキャリアパスになりうるという指摘がなされた。
     最後に、弁護士は、中小企業での利用を拡大するために、弁護士に対する多くの一般市民の期待が法律を使って社会に正義をもたらすことに向けられていることを自覚すべきであり、地道にクライアントとの信頼関係の構築にあたることが重要であると指摘された。
 パネリストの報告に続いて、ディスカッションがなされ、フロアからも、さまざまな質問やコメントが寄せられた。企業が法律問題の認知を十分できていなとの点に関連して、逆に弁護士サイドが企業経営に対する理解をどの程度しているのかという疑問が提起され、弁護士側にもビジネスを知るための努力が求められることが示された。
 また、今回は中小企業における企業法務に焦点が当てられたが、大企業においても、従業員が業務の中で法的問題を認知して法務部門に相談するということが必ずしも十分に行われているとは限らず、大企業においても共通の問題があるという指摘もなされた。
 弁護士と企業を結ぶパイプ役として隣接士業をとらえること、弁護士と隣接士業の連携強化を図ることが重要ではないかという指摘がなされた。法科大学院修了者で新司法試験未合格の人々の中にも優れた人材があり、ただ、終了後の消息等が不明であることが多いが、今後企業法務分野で未合格者の就業機会が出てくることに期待したいとの声があった。

10:34